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産婦人科医不足の深刻さ

診療科別の医師の偏在

「医師不足」という言葉を耳にするようになってから10年余りが経ちました。今でも医学部面接試験で「医師不足についてどう思うか」という質問をされることもあるようですが、正しい情報を知り、自分の考えをまとめておかないと現状に合わない意見を述べてしまうかもしれません。
「医師不足」という場合に、言葉をそのまま「医師が不足している」と捉えてしまうと、中には「そんなことはない」という医師の方もいらっしゃいます。AIの導入により、現在の医師の仕事の多くがなくなってしまう、というのです。それが事実となるかはさておき、今の時代に合った医師不足という意味は主に2点で解釈されることが多いです。
・地域別の医師の偏在=特定の地域に医師が不足している
・診療科別の医師の偏在=特定の診療科に医師が不足している

本文では診療科別の医師の偏在について、特に産婦人科医不足の深刻さについて述べようと思います。

なぜ産婦人科医が不足するのか

医師が不足している診療科は産婦人科が筆頭に挙げられます。産婦人科の医師になりたいという若手が少ないのです。理由は以下の3点が考えられます。
1、労働条件が過酷(勤務時間が長時間・不規則)
2、直接患者の命にかかわる
3、訴訟リスクが高い

1に関しては、もちろんどの科でも医師の労働条件は過酷です。ただし、産婦人科の医師は特に過酷と言わざるを得ないでしょう。出産は予定日があっても、あくまでも目安で、厳密に出産のタイミングは分かりません。そのため勤務時間は不規則になり、24時間365日いつでも呼び出される可能性があります。さらに産婦人科医が不足していることが、ますます労働条件を過酷にしています。

2について、医師という職業は直接患者の命にかかわる仕事というイメージが強いと思いますが、科によってはそれほど直接的ではない場合もあります。「医師によって直接」患者が命を落とす可能性があるのは外科・産婦人科などに限られていて、内科・眼科・耳鼻科・皮膚科・精神科・美容外科・麻酔科など患者が命を落とす可能性がそれほど高くない科も多いのです。特に出産は「病気」ではないですし、「母子共に健康で当たり前」という風に思われがちです。
そこで、もし何かがあった場合に医療過誤を疑われ、3につながりやすいのです。

産婦人科医の過酷さ

先ほど産婦人科医の仕事についての過酷さは述べましたが、実は過酷なのは「労働条件」や「訴訟リスク」だけではありません。出産の前後、妊婦さんは産婦人科に通うことになります。精神的・肉体的に不安を抱えている方も少なくないですし、人生にとって出産は一つの大きな出来事ですので、出産を無事に終えるためには精神的なフォローが必ず必要になってきます。
一方で産婦人科に来る方は出産を希望する妊婦さんばかりではなく、中絶を希望する妊婦さんや、不妊治療を希望する方もいらっしゃいます。そういう患者に対しては、出産希望の妊婦さんとはまた違ったフォローが必要です。近年、医療を扱った小説やテレビドラマなどは実際の医師が出版・制作に関わったものが多く、ある程度リアルな医療現場を知ることができる場合もありますが、産婦人科医を採り上げたものを見るとやはり過酷な現状が描かれています。精神的にも過酷な職業であることは間違いありません。

産婦人科医不足の弊害

産婦人科医以外にも不足している診療科はあり、小児科などが挙げられますが、小児科がない地域に住む子どもは内科や外科で診察を受けることができます。しかし、産婦人科がない地域に住む妊婦さんはどこで出産をすればいいのでしょう。こういった「住む地域に産婦人科がない」人は年々増え続けていると言われており、また都市部でも産婦人科を休止せざるを得ない病院が出てきていると言います。また、出産する病院を確保できずに臨月を迎えた妊婦さんが、救急車を呼んだものの多くの産婦人科に受け入れを断られるなど「お産難民」と呼ばれるような状況も生まれています。
現在は世界でもトップクラスの安全性を誇る日本の産科医療ですが、このまま産婦人科医が不足してしまうと、大きな問題になる可能性もあります。

産婦人科医への理解と関心

ここまで産婦人科の過酷さばかり述べてきましたが、病気ではなくお産を取り扱う産婦人科は医師の中でも特有のやりがいのある仕事です。「医師」ではなく、「産婦人科医」になりたくて医学部を目指す学生も数多くいます。新しい生命が誕生するという奇跡に関われる仕事は医師の中でも特別なもので、出産する女性の人生に寄り添いたいという高い志を持って産婦人科医を目指してきた方々によって支えられているのが日本の周産期医療です。しかし、現状ではあまりの過酷さによって、敬遠されているという現状があります。産婦人科医の負担をどのようにして減らしていくのか、産婦人科医をどのようにして増やしていくのか、もっと国全体が大きく関わっていかなければいけません。また、我々も周産期医療を支えている医師・現場への理解と関心を広めていくことが重要だと思います。

最後に、日本産科婦人科学会のサイトで「Reason for your choice」という特設ページがあり、そこには産婦人科の魅力などが様々な視点から紹介してあります。ご興味ある方はご覧になってみてください。

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