世の中には様々な職業・仕事がありますが、「歯科医師」として働く上でのやりがいとは何でしょうか。答えは、「そもそも何のために歯科医師は存在するのか」を考えていくと出てきます。
歯科医師法第1章第1条によれば、「歯科医師は、歯科医療及び保健指導を掌ることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって健康的な国民の生活を確保するものとする」とあります。
簡単に言うと、虫歯や歯周病などの病気を治し、歯科に関する知識を患者さんに与え、指導をし、病気の予防に努めることが歯科医師の仕事だということです。
医療現場でのプレッシャー
歯科医師になるためには、ある一定の知識と技術が必要になります。そのため、大学在籍中から、国家試験を含む様々な試験をクリアしなくてはなりません。
学生のうちは講義や実習を通じて受動的に学んでいけますが、卒後は能動的に、自分で知識や技術を習得していかなくてはならなくなります。
そのため、歯科医師としてのスキルは人により個人差が出てきてしまうことも事実です。「現場で働きながら、能動的に物事を学ぶ」ということは、とても大変なことです。
ましてや医療は人を相手にした仕事で命に直結することもあるので、失敗は許されません。そのプレッシャーは大変に大きく、辛く感じることもあります。
患者さんの健康を守るために
しかし、歯科医師法にもあるように、患者さんの口の中の健康を守ることは「健康的な生活を確保する」ことにつながる、とても大切なことです。
ごはんを噛んで飲み込むこと、唾液を出すこと、会話をすることなど、口のはたらきは実に多彩であり、それが毎日の生活の楽しみに繋がっていたり、全身の健康へ影響を及ぼしていきます。
治療を通して患者さんの健康を維持すること、お話をして健康への理解を深めてもらうことは、大変にやりがいのある素晴らしい仕事であると自負できます。
患者さんの中には「歯は悪くなったら抜いてしまえばいい」といったような、ご自分の歯にあまり関心のない方もいらっしゃいます。
しかしこれが胃や腸なら「悪くなったら摘出してしまえばいい」とはならないはずです。歯も胃や腸と同じ、大切な役割をもった内蔵なのです。
そんな患者さんが自分の治療や指導によって、ご自分の歯の能力の高さに気づき、健康を気遣えるようになってくださる瞬間は、とても嬉しくなります。
経営者としての顔
また、クリニックを開業する場合、経営者としてのスキルも求められます。
外科処置が得意な先生もいれば、予防が得意な先生もおり、「どの分野をどの程度まで極めていくか」は自由に選択でき、得意分野は人それぞれになっていきます。
自分のどこを伸ばし武器にしていくか、患者さんの利益に繋げるかを考えることは、楽しいものです。
現在は歯科医師過剰などと言われていますが、私は歯科医師の数ではなく、国民の歯科への受診率の低さが問題だと考えています。
例えば、厚生労働省の調査によると、2014年の45〜54歳の歯科診療所への受診率はおよそ1%です。しかし、この年代は、およそ半数の方が軽度〜重度の歯周病になっていると言われています(2016年歯科実態調査より)。
初期の歯周病は自覚症状も少ないこともあり、「痛くならなければ受診しなくて大丈夫」という考えを持つ人が多いことを表す数値だと思います。
痛くなくても予防を兼ね、なるべく楽しんで来ていただけるような歯科医院が求められています。
そのためにも、患者さんがご自分の口の健康を維持することに対し、もっと関心を持っていただく必要があります。
そのために、どのように工夫していくか、ということを考えることも、経営者として大事な仕事となるでしょう。
「先生」と呼ばれても堂々としていられるように
歯科医師は臨床現場で患者さんや歯科衛生士から「先生」と呼ばれます。卒後間もない、歯科医師になりたての研修医でも例外ではありません。
そのときに恥ずかしく、心苦しく思わないためにも、日々の努力を積み重ねて、自信をつけることが大切です。
歯学部受験を検討中の皆さんが、志高く、患者さんのために力を尽くす歯科医師になられることを願っております。